#21 スペインのお菓子:トリハス(歴史など)

(作り方のみご覧になりたい方は次の投稿へ)

まだまだ警戒宣言下のスペインですが、COVID-19禍がなければ、今週はセマナ・サンタ(カトリックの聖週間)の盛大なお祭りが各地で繰り広げられているはずでした。

毎春、主だった都市や町ではプロセシオン(宗教行列)が行われ、日本のゴールデンウィークのような人出になるのですが、今年は全国の行事が中止となり、かつてない静かな聖週間となっています。

そんな中、お家でできることのひとつが、トリハス(Torrijas)を作って食べること。

作り方は簡単ですし、セゴビア市内のバルによっては年中出しているところもありますが、特にセマナ・サンタではスペイン中の多くの家庭がこのトリハスを作ります。

家庭で手軽に楽しめるトリハス

「トリハ」とは

お菓子作りの好きな方でしたら、すでにトリハスはご存じかもしれません。

スペイン王立アカデミーのスペイン語辞典によると、トリハ(torrija)とは:

Rebanada de pan empapada en leche o vino y rebozada con huevo, frita y endulzada.
薄切りパンを牛乳またはワインに浸し、卵で衣をつけて揚げ、甘みをつけたもの(筆者訳)

https://dle.rae.es

え、ワイン?というのはちょっと置いておいて。(次の投稿で少しだけ触れています)

せっかくなので歴史や由来を調べたところ、若干深みにはまってしまったのですが、以下まとめてみました。(参考記事:El Comidista EL PAÍSDiariocríticoEuropa Press

まず、起源や歴史にまつわる情報。

  • 1世紀のローマ人美食家マルコ・ガビオ・アピシオのものとみなされているレシピ集に、(卵は使われていないが)牛乳に浸した薄切りパンが「甘いもの」のひとつとして紹介されている。
  • アラブ人による支配が長かったアンダルシア地方には、サラビイヤと呼ばれるお菓子がある。パンを油で揚げ、蜂蜜をまぶしたもので、トリハスの先祖かもしれない。
  • 15世紀、カトリック両王時代の詩人、音楽家、作家であったフアン・デル・エンシーナが「トレハス(トリハス)」という言葉を使った最初の人物。彼の1496年の詩歌集には、「蜂蜜とたくさんの卵を、トレハスを作るために」と歌うクリスマスキャロルが登場する。キリストを出産した直後の聖母マリアへ、「産褥期の回復のために」献上する贈り物という文脈である。
  • この「トリハスは産後の女性の回復を助け、母乳の出がよくなる」という考え方は、スペインのメノルカ島やガリシア地方のトリハスの別名からも伺い知ることができる。また、1492年にスペインから追放される以前、スペインに住んでいたユダヤ人の間でも、トリハスに非常によく似た食べ物が「褥婦の薄切りパン」と呼ばれていたそう。
  • そうした背景から、16世紀以降、「トリハス」はさまざまなクリスマスキャロル、詩、喜劇などに登場する。
  • 「トリハ」という言葉は当初「スライスしたパン」という意味で使われていた。1611年、宮廷料理人だったフランシスコ・マルティネス・モンティーニョが書いた料理技法の本には「トリハ」という単語が59回登場するが、こんにちの「トリハス」に相当するレシピは1回しか出てこない。

まだまだあったのですが、このくらいにして次へ行きます。

なぜ聖週間にトリハスを食べる習慣があるのか

セマナ・サンタにトリハスを食べる伝統はいつ頃から生まれたのか、上記の歴史から想像すると15-16世紀頃かな、と思ったのですが、これはもっと新しいもののようです。

トリハスとセマナ・サンタが関連づけられたのは、19世紀後半頃ではないかと言われています。

セマナ・サンタは、キリスト教のクアレスマ(四旬節:灰の水曜日から復活祭前日の土曜日までの、日曜をのぞく40日間、日曜を含めると46日間)の最後にやってくるわけですが、このクアレスマの期間、「キリストの苦しみを分かち合う」観点から、節制が求められました。

このことから、次のような理由でトリハスが食べられるようになったと考えられるようです。

  • 小斎(肉を食べないこと)を行う際、寂しい食卓を少しでも明るくするため、規定を破らないトリハスが食べられるようになった。
  • 節制の期間に肉食を控えた結果、家庭でパンが余ることが多く、それを消費するためにお菓子にした。
  • 節制期間中であっても、パンはキリストの体、ワインは血、であるという言い訳が成り立つ。(ここにもワインが出てきます)

なお、19世紀に中産階級が増加し、一方トリハスの材料となる砂糖、パン、シナモンなどは価格が下がっていったため、トリハスはもはや特別なデザートではなくなっていたとのこと。

この時代のレシピ集には、じゃがいも、コーヒー、ジャム、チョコレート、チーズなどでさまざまにアレンジされたトリハスが載っていて、現在私たちが目にしている「斬新な」トリハスのほとんどは実のところ100年前に考え出されたもの、というのは興味深い話です。

ちなみに、現代のカトリック教会において、この四旬節の節制は厳格に規定されたものではないそうですが、四旬節の毎週金曜日と灰の水曜日や聖金曜日に小斎を行う人々も今もいるようです。

トリハスはトリハス!

ここでちょっと余談。

常々気になっているのですが、日本語のウェブサイトなどでトリハスが「スペイン風フレンチトースト」などと紹介されているのをたまに見かけます。
スペインなの、フランスなの?(笑)

とはいえ、私も日本の友人に説明するときはその表現の方がイメージしてもらいやすいので、ジレンマでもあります。

ただ、細かいことを言いますと、でき上がりの見た目は似ていても、作り方と食感が、フレンチトーストとはちょっとだけ違うのです。

トリハスはトリハス!

ここで小さい声で主張しておきたいと思います。

ちなみに、トリハスの「リ」は巻き舌ですが、私はうまく言えません。

作り方は #22 でご紹介しています

肝心の作り方は次の投稿にまとめました。といっても、夫が完全に目分量でちゃっちゃと作っているのを横目で見ていただけ(!)です。味は、ひいき目ではなくおいしかったですよ。

私の周りでは、男性でもトリハスを作るのが好きな・上手な友人がたくさんいます。毎年、男女関係なくトリハスを作って持ち寄り、内輪でコンクールをやっているくらいです。

日本でも身近な材料ですぐに作れるトリハス、ぜひお試しくださいね。

外はカリッと、中はとろとろ